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第846話

Author: 宮サトリ
たとえ彼が若い頃に傷ついた経験を抱えていたとしても、それが今の行動を正当化することになるのか?何を意味するというのだろうか。

また、それが彼に何の関係があるというのか?

誰だって若い頃に一度は傷ついたことがあるだろう。

......だが、瑛介の命令である以上、健司もこれ以上は何も言えなかった。

「分かりました。ご安心ください。徹底的に調べてみせます」

そう言って、健司はその場を離れた。そこには瑛介ひとりが残された。

彼は唇を真一文字に結び、じっとその場に立ち尽くしていた。

脳裏をよぎるのは、健司が語った言葉ばかりだった。弥生が、まるで心の底から弘次を案じているかのように話していた、あの時の様子が、どうしても頭から離れなかった。

胸の奥が、じくじくと痛んできた。酸っぱく、苦い感情が同時に広がった。

いてもたってもいられなくなった瑛介は、彼女を探しに立ち上がった。

弥生は健司と話したあとも、しばらく弘次のことが頭から離れなかった。

ふたりの子供は部屋でアニメを見ていて、それぞれスマホを手にしていた。

弥生にも一台スマホがあった。それは瑛介が用意させたものだった。以前使っていたスマホは、あの日の夜に逃げ出す際、慌ただしさのあまり持ち出すのを忘れてしまった。

だから今は、瑛介が用意した端末に、新しいSIMカードを入れて使っている。もとの番号は、日本に戻ったあとで再発行するしかない。

ひとりでそんなふうに考え込んでいたとき、由奈が部屋に入ってきた。

「弥生、こっちの問題もだいたい片付いたし、私と......えっと、あのクソじゃなくて......社長のほうも、そろそろ帰る準備しなきゃって思ってるの」

つい昨日の夜に会ったばかりなのに、もう帰ってしまうの?

そう思うと、弥生は名残惜しげに彼女を見つめた。

「もう少し、こっちにいてくれないの?」

由奈は舌を出しながら、申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、本当はもっと一緒にいたいんだけど......でもね、社長はもう結構長く付き合ってくれたし、これ以上会社を空けたらさすがにまずいでしょ?最初はね、彼だけ先に帰らせて、私が残ろうと思ったんだけど......彼が許してくれないの。絶対一緒に帰るって」

その言葉に、弥生はなんとなく察したような気がして、ふっと笑った。

「許してくれないっていうより
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